沖縄市の福原義隆土地家屋調査士事務所です。相続の手続きを進めていくと、思いがけない形で登記の問題が出てくることがあります。その一つが、建物に登記記録がないというケースです。
「登記事項証明書が取れない」で気づく
相続の手続きでは、まず亡くなった方がどんな不動産を持っていたかを確かめます。手がかりになるのが、市町村から届く固定資産税の課税明細書や、市町村役場で取れる名寄帳です。
そこに載っている建物について、法務局で登記事項証明書(かつての登記簿謄本)を請求すると、「該当する登記記録がない」と言われることがあります。書類の不備ではありません。その建物は、はじめから登記されていなかったのです。
固定資産税を毎年きちんと納めてきた建物で、これが起こります。
税金は課されているのに、なぜ登記がないのか
登記と固定資産税は、別々の仕組みで動いています。
登記は法務局が扱い、所有者が申請して初めて記録されます。一方の固定資産税は市町村が扱い、登記簿に載っていない家屋も課税の対象になります。地方税法は、登記簿にない家屋についても、市町村が「家屋補充課税台帳」に所有者や所在、床面積を登録するよう定めています。市町村は登記の有無と関係なく、現地を調べて課税できるわけです。だから「税金を払っている=登記されている」ではありません。
同じ法律には、登記されるべき家屋が登記されていないために課税上支障があるとき、市町村長が法務局に登記などの措置を申し出ることができる、という定めもあります。行政の側も、未登記の家屋を把握はしているのです。
見分け方
心当たりのある方は、手元の固定資産税の課税明細書をご覧ください。
建物の欄に 家屋番号が入っていない、あるいは「未登記」と記載されている場合、その建物には登記記録がない可能性があります。家屋番号は登記されたときに法務局が付ける番号なので、登記がなければ空欄になります。
確実なところは、法務局で登記事項証明書を請求すればわかります。
期限は「3年」ではなく「1か月」
2024年4月から相続登記が義務化されたことは、報道などでご存じの方も多いと思います。不動産登記法76条の2は、相続で不動産を取得した人に、そのことを知った日から3年以内の登記申請を義務づけています。
見落とされがちなのが、登記記録そのものがない建物の場合は、期限がもっと短いということです。
不動産登記法47条1項は、「新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない」と定めています。新築した人だけの話ではなく、登記のない建物を相続などで取得した人にも、同じ1か月の期限がかかります。ここで対象になるのは一戸建てのような通常の建物で、マンションの一室のような区分建物は別の扱いになります。
土地についても同様で、36条が表題登記のない土地に1か月以内の申請義務を定めています。
そしてどちらの義務も、164条1項により、正当な理由なく申請を怠ったときは10万円以下の過料の対象とされています。過料の上限は、相続登記の義務違反と同じです。
では、相続の場合の「所有権の取得の日」はいつでしょうか。民法896条により、相続人は相続開始の時から被相続人の権利義務を承継します。遺産分割を経た場合も、909条によりその効力は相続開始の時にさかのぼります。つまり起算点は、原則として被相続人が亡くなった日です。
相続の手続きを進める中で未登記に気づくころには、1か月はとうに過ぎているのが普通です。期限を過ぎていても、放置せず、気づいた時点で動くことが大切です。
なお、遺産分割がまだ済んでいない場合は相続人全員の関係を整理する必要がありますし、相続放棄や遺言の有無によっても、誰が申請するのか、どんな書類が要るのかが変わります。
誰に頼むのか
登記の申請は、原則としてご本人が行うものです。ただ、表題登記は現地の測量と図面の作成をともないますので、専門的な技術と知識が必要になる場面が多く、資格者に依頼されるのが一般的です。
建物の登記は、大きく二つに分かれます。
表示に関する登記は、その建物がどこに、どんな構造で、どれだけの広さで存在しているかを、登記記録に初めて起こす手続きです。現地を測り、図面を作る必要があるため、土地家屋調査士が担当します。未登記の建物で最初に必要になるのが、この表題登記です。
権利に関する登記は、表題登記のあとに所有権保存登記などを行い、第三者に対して自分の権利を主張できる状態に整える手続きです。司法書士が担当します。
未登記の建物を相続した場合、表題登記を入れてから権利の登記へ進む、という順番になります。それぞれの登記は、その資格を持つ者が自分の責任で担当します。当事務所は司法書士事務所と同じ窓口にありますので、権利の登記が必要になれば、同じ場所で司法書士から直接ご説明とお見積りをいたします。別の事務所を探していただく必要はありません。
実際に何をするか
表題登記の申請には、建物図面と各階平面図、そして表題部所有者となる者が所有権を有することを証する情報が必要です(不動産登記令 別表12項)。
法令そのものは「所有権を有することを証する情報」としか書いていません。中身を示しているのは法務省民事局長の通達で、不動産登記事務取扱手続準則87条1項が、建築基準法6条の確認と7条の検査があったことを証する情報、建築請負人または敷地所有者の証明情報、国有建物の払下げの契約に係る情報、固定資産税の納付証明に係る情報、そして「その他申請人の所有権の取得を証するに足る情報」を挙げています。
新築であれば確認済証・検査済証と工事完了引渡証明書が定番です。ただ、古い建物ではこれらが残っていないことがよくあります。そこで効いてくるのが、通達が並べているそれ以外の情報です。固定資産税の納付証明はその代表ですが、これ一枚で足りるとは限りません。税を納めていた人と所有者が一致しないこともあるためで、戸籍や遺産分割協議書、建築当時の資料などと組み合わせて判断していきます。
相続で引き継いだ建物の場合、この資料は二段構えになります。まず、亡くなった方がその建物の所有権を取得したこと(多くは建てたこと)を示す資料。次に、相続によってご自身がそれを引き継いだことを示す資料です。この二つが揃えば、被相続人の名義を経ずに、相続人ご自身の名義で表題登記を申請できます。
どの資料をどう組み合わせれば足りるかは、建物の年代と残っている資料しだいで一件ごとに変わります。各法務局が定める実地調査要領にも具体的な取扱いが示されており、最終的には法務局の判断になります。ですから、資料が揃っていない段階でも、まずはご相談ください。「何も残っていないから無理だ」と思っていたものが、意外な資料で通ることもあります。
現地では、建物の各階の形状と床面積を測ります。ここは新築の表題登記と同じ作業です。費用と期間の目安は土地家屋調査士の費用と期間の目安にまとめてあります。
気づくのが遅れると困る場面
未登記のままでも、住み続けるぶんには不都合を感じないことがほとんどです。問題になるのは、その建物を動かそうとしたときです。
売却するとき、買主に所有権を移す前提として登記が要ります。住宅ローンを使うときは、抵当権を設定するために登記が必要です。建て替えや解体で補助金を使う場合も、所有者の確認を求められることがあります。取り壊した後で登記の話が出てくると、建物がもう存在しないだけに手続きが複雑になります。
いずれも「来月までに」という話になりがちで、そこから測量と資料集めを始めると間に合いません。
なお、登記のない建物は決して珍しいものではありません。国も、所有者の分からない不動産をめぐる問題として、実態の把握と対策の検討を進めています。
まずはご相談から
「実家の建物、登記されているのだろうか」と気になった方は、固定資産税の課税明細書をお手元にご用意のうえ、お問い合わせフォームまたはお電話でご相談ください。登記の有無を調べるところからお手伝いします。表題登記についてのご相談とお見積りは無料です。取扱業務の一覧は土地家屋調査士事務所のページをご覧ください。
根拠: 不動産登記法36条・47条1項・76条の2・164条1項、不動産登記令 別表12項、地方税法381条4項・7項、民法896条・909条(いずれも2026年7月末時点で施行されている条文。e-Gov法令検索)。所有権を証する情報の例示は不動産登記事務取扱手続準則87条1項(平成17年2月25日付け法務省民二第456号 法務省民事局長通達)によります。